年末調整の時期は、携わる総務や経理の担当者の方にとっては大変な季節ではないでしょうか。円滑な業務推進のためにも、必要な書類は早く提出したいものです。
とはいえ、この年末調整と年明けにある確定申告とはいったい何がどう違うかわからない方もいらっしゃるかと思います。とくに不動産投資を副業にしている場合はどう対応すれば気になるところです。
今回は、2つの制度の違いと必要な手続きについて解説していきましょう。
そもそも年末調整とは
普通のサラリーマンには毎年年末になると、会社の経理や総務などから、生命保険の支払書や控除に関する書類の提出を求められます。いわゆる、年末調整というものですが、いったいどういう手続きなのでしょうか。
年末調整は給与所得者だけの特権
一般的に会社員などの給与所得者は、毎月の給与から税金、社会保険、労働保健などが天引きされて支払われ、天引きされた税金や社会保険などは会社が本人に代わって国や所定の機関に支払っています。給与から税金を天引きして、税金を徴収する仕組みを源泉徴収といいます。この仕組みのおかげで、原則的に給与所得者は、税務署に納税の手続きをする必要がありません。
しかし、年間10万を超えるような医療費、生命保険や医療保険、学資保険など一定額の控除が認められるものがあります。この控除を求めて書類を提出し、手続きすることを年末調整といいます。何度も税務署へ出向く必要がない大変便利な制度で、給与所得者だけの特権でもあります。ただ、例外として、一部の給与所得者は確定申告が必要です。
確定申告との違い
確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間の所得や経費を税務署に申告して、税金を払ったり還付してもらったりする手続きです。給与所得者は源泉徴収されており、年末調整で控除の手続きが済んでいるため、通常は必要のない手続きです。そのため、源泉徴収がない自営業者や個人事業主は収入を報告するために行います。
年末調整との最大の違いは、確定申告は計算や申告書作成、提出、納付まで行う必要があります。税理士に依頼もできますが、その費用も自分で出さなければいけないのです。
例外として、給与所得者でも、会社が関与する源泉徴収にならない収入のある人や住宅ローンを支払っている人は確定申告が必要です。
不動産投資をしている人が年末調整でやることは?
不動産投資をするということは、会社の把握する源泉徴収している収入とは別の収入があるため確定申告が必要です。では、年末調整はどう扱えばよいのでしょうか。
年末調整は会社に任せてOK
年末調整は会社が把握している範囲を対象とした控除を本人に代わって手続きしてくれます。個別の事情は本来、自分で確定申告を行わなければなりませんが、会社に証明書を提出して年末調整で済ますことができます。
会社から生命保険支払証明書や寡婦控除・寡夫控除の証明書などを求められるのは、この手続きを会社が本人に代わって行ってくれるからです。通常の控除は会社から求められますので、任せてしまっても問題はありません。
不動産投資の収入は自分で確定申告する
不動産投資を副業としている人は、会社で源泉徴収される収入とは別の収入があります。この収入に関しては確定申告をしなければいけません。ここでいう収入は賃料収入から不動産投資にかかる経費を差し引いたものです。この収入が黒字であれば所得として確定申告をする必要があります。
差し引いた結果がマイナスになった場合は、「赤字で所得がないので申告はいらない」と考えてはいけません。損益通算という制度があり、給与所得と不動産収入を合算した収入から不動産にかかった経費を差し引くことができます。結果、所得税率が変わって還付を受けることができる場合もありますので、必ず申告をすべきなのです。
また、所有する不動産が災害の被害を受けた場合や耐震改修を行った場合も控除を受けることができる場合もあるので忘れず申告しましょう。補足として、年末調整の時にうっかり各種証明書を出し忘れた場合も一緒に出せば、この分の控除もしっかり還付されます。
不動産投資ではない住宅ローン控除も確定申告が必要
自分の居宅を購入するために住宅ローンを組んだ場合も控除を受けることができます。
※『住宅ローン減税』等とも言われている。正確には『住宅借入金等特別控除』と言います。
これは不動産投資のローンと違い、住宅ローンと呼ばれています。
住宅ローン控除を受けるためには、最初の年に確定申告が必要です。確定申告には住民票の写しやローンの年末残高証明書といった多くの添付書類が必要です。
詳しくは申告書類やWebに記載がありますので、しっかりと確認して用意しましょう。なお、2年目以降は年末調整の時に手続きできるようになり、確定申告は不要です。
不動産投資家の確定申告フロー
自営業者や個人事業主にはおなじみの確定申告ですが、給与所得者であるサラリーマンにはあまりなじみがないのではないでしょうか。そこで、確定申告の流れを簡潔に解説します。
青色申告はメリットが大きい
基本的に確定申告には青色申告がオススメです。青色申告は控除や手続きの面で多くのメリットがあります。青色申告を行うには、確定申告の前に税務署へ青色申告承認申請書を提出します。この申請書は事業開始から2か月以内に提出しなければいけませんので、注意が必要です。
①白色申告 or 青色申告を行う
確定申告には青色申告がオススメですが、青色申告以外にも申告方法があります。青色申告以外の申告方法を白色申告といいます。白色申告は簡易的でシンプルな申告方法ですが、控除などの特典が青色申告に比べて少ないのがデメリットです。青色申告と違って帳簿処理も簡易でよく、開始申請も不要な点はメリットといえます。
②確定申告に必要な書類をそろえる
確定申告を行うには申告書を作成しなければなりません。申告書を作成するための第一歩として、収入や支出に関する書類の収集を行います。
白色申告の場合
必要な書類は大きく分けて5点です。
・確定申告書B
・収支内訳書(不動産所得用)
・源泉徴収票
・身分証(免許証orパスポート)
・マイナンバーカード(通知カードor番号記載の住民票でも可)
確定申告書Bと収支内訳書は税務署でもらえるほか、ネットからダウンロードできます。控除に必要な証明書類や領収書は、給与所得者は年末調整で控除手続きを終えていることが大半ですので不要です。年末調整の時に出し忘れた場合は一緒に添付します。領収書や帳簿は添付しません。しかし、7年間の保管義務がありますので、しっかり保管します。
青色申告の場合
青色申告の場合も収入や支出に関する領収書や証明書を収集します。
必要な書類は下記のとおりです。
※65万円控除と10万円控除で提出書類が増減します。
・確定申告書B
・収支内訳書(不動産所得用)
・源泉徴収票
・身分証(免許証orパスポート)
・マイナンバーカード(通知カードor番号記載の住民票でも可)
年末調整で控除の手続きは済んでいますので、控除に関する証明書類は不要です。ただ、年末調整に出し忘れた場合は添付して控除を請求できます。確定申告書Bと青色申告決算書は税務署で入手できるほか、ダウンロードでも入手可能です。
青色申告の場合は、青色申告決算書と損益決算書、貸借対照表を作成します。近年では、不動産投資の必要経費に関する領収書の添付は不要になりましたが、7年間の保管義務があるため、帳簿と一緒にきちんと保管しましょう。
③確定申告書、青色申告決算書、不動産収支内訳書に記入する
白色申告の場合は、不動産収支内訳書に帳簿内容を記載して、完成させます。不動産収支内訳書をもとに確定申告書Bを作成します。確定申告B収入欄の給与の欄に源泉徴収票の支払金額、不動産収入欄に不動産収支内訳書の不動産収入を転記しましょう。同様に所得の給与所得と不動産所得をそれぞれ転記していきます。
控除欄の社会保険控除や生命保険控除があれば源泉徴収票から転記します。ほかに年末調整に提出し忘れた控除があれば記載しましょう。
最後に確定申告書Bの記載に従って申告書を完成させます。通常は控除後所得に記載し、税額を計算します。源泉徴収欄に記載した金額を差し引き、納税額を記載して完成です。源泉徴収票がある場合は確定申告書Bの第2表へも記入しましょう。
青色申告の場合でも手順は異なりません。記載は白色申告と同様に記載します。ただし不動産収支内訳書はありません。代わりに、収入や経費を記載する「損益計算書」「損益計算書の内訳」「貸借対照表」を作成します。それぞれ税務署で入手できるほか、ダウンロードもできます。
④税務署に書類を提出する
作成した確定申告書は添付書類と一緒に税務署の窓口へ提出します。書面で申請する場合はコピーを取っておくと何かと便利です。なお、窓口へ持参した場合は確定申告書に受領印を押した控えがもらえます。書面の提出は持参だけでなく郵送でも構いません。郵送の場合は管轄税務署へ郵送します。
書面をPCやスマホで作成して、ネットで提出する電子申請(e-Tax)もあります。e-Taxは最初ひと手間かかりますが、税務署へ出向かず、会計ソフトで作成できるメリットあり、今後主流になっていくと思われます。
詳しくは、税務署の案内ページ(http://www.e-tax.nta.go.jp/kojin.html)をご覧ください。
不動産投資でかかる税金はいくら?
不動産投資による所得にかかる税金はどれくらいでしょうか。簡単に計算してみましょう。
課税所得金額は所得金額から経費や控除額を差し引いた金額のことです。たとえば、給与所得が500万円、不動収入が500万円、経費が300万円、控除が全部で50万円だった場合は、500万+500万-300万-50万で650万円が課税所得です。
650万円に税率20%をかけた金額から控除額47万2500円を差し引いた金額が所得税額です。
今回の場合は82万7000円が納税額にあたります。
なお、給与所得がある場合、源泉徴収で給与分の税金は引かれていますので、82万7000円から源泉徴収で支払った分も差し引いた金額を納税します。
不動産投資では住宅ローン控除を受けられないので注意!
住宅ローン控除の条件は「自家用」です。不動産投資は第3者に賃貸するためですので、自家用にならないため受けることはできません。そもそも不動産投資には基本的に住宅ローンを利用できません。そのため住宅ローン控除受けることができないのです。
節税対策としての不動産投資の優位性
不動産投資は節税に効果的といわれています。購入のための融資の金額や維持費は経費にあたります。土地は減価償却が認められませんが、建物は減価償却できるため費用に計上できます。
また、生命保険控除を受けるより、団体信用生命保険がついている不動産融資を受けて投資するほうが、節税効果が大きく資産も形成できるという考え方もあります。団体生命保険にかかる保険料は費用にあたります。不動産投資による不動産経営が赤字となっても、損益通算で所得控除が増えるため、節税の効果が発生し、保障を受けながら資産形成をするという方法です。確実な給与収入があって融資を受けることが可能であれば一考の余地は十分にあります。
但し、物件によっては土地の持ち分割合が多かったりすると、減価償却費の計上が少なくなり、節税どころか納税しなければならない事もありますし、『固定資産税』や購入から1度だけ『不動産取得税』の支払いもあります。
税務署が認めてくれている範囲でしっかりと経費計上していくことがとても大切です。
まとめ
サラリーマンなどの給与所得者が不動産投資した場合の確定申告手続きを見てきました。年末調整を行っても確定申告が必要であるということがわかっていただけたと思います。
近年も芸能人の申告漏れが発覚して騒動になっています。少しならバレないなどと思わず、確実に申告を行ってください。無申告は必ずバレてしまうものです。
ぜひ本記事を参考にして、正しい納税方法で不動産等投資ライフをお送りください。